ほわいとあっぷる 【長編】鬼狼の物語 其の4 忍者ブログ

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【長編】鬼狼の物語 其の4

宿に戻ると、良一の周りに数人の村人が群がっており、何やら良一が指示しているようだった。おそらく宴会の準備でもしているのだろう。
風夢はそれを見て、邪魔しないようにと外で待機することにした。
馬小屋にいる鬼狼達の馬の面倒を見て、暇を潰す。しばらくすると、数人の村人が宿から出てきた。
「おい、いいのかよこれで?」「仕方ないだろう。決まった事なんだ」
「でもまずいんじゃないかこれ?」「ばっか。俺達が村守らないで、誰が守るってんだよ」
村人達が、ぼそぼそと会話を繰り広げている。どうやら良い話ではなかったようだ。恐らく、死んでしまった村人についての集会会議だったのかもしれないと、風夢は思っていた。
そんな村人達を、良一が見送っている。村人も良一も何だか浮かない顔であった。
「良一さん」
風夢が彼の名を呼ぶと、ゆっくりとこちらに視線を合わせて、ニコッと笑顔を作りだした。
「あぁ、鬼狼さん達。おかえりなさいませ」
「ただいま帰りました。この位でよろしいでしょうか?」
そう鬼狼が言うと、背負ってきた籠を良一の前にとすんと置いた。
それを見て、良一は虚を突かれたのか、一瞬言葉を失う。
「……え、えぇ。十分過ぎますよ。少し量が多いくらい、十分です」
「だから量多いって言ったのに」
「あっはっはっは!」
風夢の言葉をいつも通り笑ってごまかした。
風夢はいつものことかと思い、大きく溜息を吐く。素直に謝ってくれない所が、彼の悪いところだ。
「クロさんはそうやっていっつも……」
「ところで良一さん」
「あぁ、もうっ! こっちの話聞いてくれないし!」
そんな風夢の愚痴を華麗に鬼狼はかわし、良一に問いかけていた。
「はい。なんでしょうか?」
「妖怪が人を喰らったという噂があったのですが――本当ですか?」
その瞬間。
良一の表情が一瞬にして、笑顔から真顔へと変わった。
少し言葉を失っていた良一は、冷静さを取り戻し、口を開く。
「……えぇ。そうなんですよ。困ったことに、鬼狼さん達がいらっしゃった夜に、村人の者一人がやられてしまいました」
先程とは打って変わって、低く暗い声で良一は言う。
彼の声は、何か動揺しているように聞こえた。鬼狼達には知られて欲しくなかったといった反応である。
「何故我らにそのことを隠したのですか?」
良一は、ケサールの詰まった籠を持ち上げた。邪魔にならないように部屋の端に移動させ、良一は話す。
「久しぶりに村への訪問者でしたので。できる限り嫌な思いはしてほしくなかったのですよ」
「――なるほど」
「やはり隠しきるのは無理だったようですね。無理もないかも知れません。村人達は落ち着いていられるわけもありませんし」
良一は、久々に村に訪れた訪問者の気分を害しないようにと、配慮しての判断だったらしい。
最終的にそれはばれてしまったという結果になったが。
「……実はですね。この村では大体月に一度の頻度で、村人がどこぞと知れない妖怪に喰われてしまうのですよ」
更に良一は口を休めず動かし続ける。
鬼狼はその良一の話を聞いて、目を細くし笑顔を崩した。
「月に一度?」
初耳だった鬼狼は良一に聞き返すと、えぇと言いながら良一は語り始める。
「その妖怪の姿を見た者はおらず、現在は対策しようがない状況で」
「――『哀』の気配を辿って来たかいがありましたね」
鬼狼はそう呟くと、ニヤリと不敵に微笑んだ。
「ならば我が退治しましょうか? お困りのようですし」
すると良一が信じられないといった目で鬼狼を見て、慌てて答える。
「し、しかし、これは私達の問題ですし、鬼狼さん達にそこまで迷惑をかけるのは……」
「大丈夫ですよ。我はそういうことするのが好きですから」
「ですが……」
「やらせてくれませんか? 我はその為にこの世界にやってきたのですから」
良一は必死になって鬼狼を止めようとするが、彼はそれを譲ることはなかった。
やがて良一は黙り込み、観念したのか一息大きく息を吐くと、
「分かりました。いつその妖怪がくるか分かりませんが、鬼狼さんに妖怪退治を任せたいと思います」
そう、鬼狼の申し出を了承してくれた。
鬼狼はニカッと良一に歯を見せると、右腕をぐるぐると回し始める。
「何、我の力があれば、このようなことどうってことありませんよ。鬼である我らは、相当強い存在ですからね」
「お姉ちゃんには負けるのにですか?」
「あはは! 風夢は我以上の馬鹿力の持ち主ですからねぇ!」
「ちょっとクロさん、嘘つかないでよ!」
「あははは、冗談ですよ。冗談。……だから、ね? 刀納めてくれませんか? それ凶器ですからね? 死ぬかもしれないですからね? それ凄く痛いですからね? 頼むから収めて下さいよ!」
そんなドタバタ劇を繰り広げている鬼狼達。何とも平和な情景が、そこにあったのである。

~@~

夜になり、空には小さな光の粒がぽつんぽつんと、飛散して存在していた。
村の中央広場では、家が円を描くように周りを取り囲み、その中央で大きな焚き火が燃え盛っている。
風夢は村人の女性陣に紛れ込んで、甘いデザートを頬張り幸せそうにしていた。優子は良一の後にひょこひょこついていって、宴の手伝いをしているようだ。
村人は酒を飲み、食べ物を食べ、揺らめく火と共に踊っている。――中には泣きながら、笑っている者もいた。
村人達は天に向かって、コップを掴み乾杯すると、誰かに語るように夜空と会話している。
「あれは……」
「――あいつに向かって話しかけているんだよ。こいつらは」
鬼狼が呟いた言葉に、隣にいた大雅が答えた。両手には二つのジョッキと酒瓶を持っていた。
「あいつとは、死んだ方のことでしょうか?」
「あぁ、そうだ」
大雅は頭を掻きながら、投げやりな感じで答える。鬼狼は、炎に視線を向けたまま、大雅の話に耳を傾けていた。
「あいつは、村一番の狩人だった。その弓の腕前といったら天下一品な芸当でよ」
「でも狩人は――逆に狩られてしまった」
「……あぁ。ひどい有様だった。腸を喰い千切られ、頭部は全て丸呑みされたのか、骨しか残ってなかった。あの死体があいつと分かったのは、あいつの相棒の弓だった」
鬼狼にいつもの笑顔はなく、無表情で死者に語りかけている人々を眺めていた。その様子はどこか、寂しく悲しみに満たされているように見える。
「慣れないものですね。死に相まみえることは」
「人を喰らう存在であるあんたが言うのかい?」
大雅は嫌味混じりの冗談を鬼狼につきつけた。
鬼狼は口だけで笑い、顔は寂しそうな表情にしたまま答える。
「我は他の鬼とは少しイレギュラーな存在でしてね。ちょいと変わり者なんですよ」
「……あんたも色々苦労してきたわけかい」
「それは大雅さんも同じではないのでしょうか? ……苦労も痛い思いなんかもしていない者など、この世にそうそういる訳ありませんからね」
大雅は目だけを動かし、鬼狼をちらりと見る。
先ほどの表情とは変わった様子は無く、鬼狼は微笑していた。やはり彼はどこか哀しみに浸っているように見える。

炎がゆらゆらと踊り、人々の影も躍る。

人々は笑っていた。
人々は哀しんでいた。
人々は泣いていた。
人々は苦しんでいた。
人々は怒っていた。

それは鬼狼もまた同じである。

鬼は笑っていた。
鬼は哀しんでいた。
鬼は泣いていた。
鬼は苦しんでいた。

鬼は――怒っていた。

さまざまな感情が入り混じり、複雑な心境。
一つの闇のせいで、小さな光が消されていく。光という仲間が消え去ってしまう。
鬼狼はその光を助ける為に此処に来た。
『哀』の悲鳴に誘われ、ぬらりくらりと風に流れされる雲の如く。
しかし、鬼狼はこの事件に関しては、全くの無関係の存在。関われば面倒。関わらなければ無に終わる。
鬼狼は鬼でありながらも、鬼の常識を打ち破り、面倒事に突っ込む性格であった。ただ人を助けたいからという想いだけが、彼を動かしている。
鬼狼の『もっとも好きな好物』は、それにより手に入るものだから、彼は此処にいた。
「まるで人間みてぇなことを言うんだな。鬼さんは」
「よく言われます。人間のことはまだまだ分からないことが多いのですけれどもね」
大人染みた会話を互いに交わすと、大雅は鬼狼にジョッキを渡す。次に片手に持っていたビンも鬼狼に手渡した。
「飲みな。お前さんが取ってきたケサールも入っててうめぇぞ?」
鬼狼は少し虚をつかれたのか、固まって何も言わなかった。やがて鬼狼はクスリと小さく笑い、ジョッキをしっかり掴んでは、夜空に向かって差し出す。
「それじゃ、酒も肉も頂きましょうかね!」
自分の好物を目の前にした鬼狼は、全てを楽しむかのように酒を飲み始めた。
死者を安心させる為にも。鬼狼は高らかに笑う。

「クロさ~ん」
「お、風夢。楽しんでますか……って、酒臭い?」
んふふーっ、と笑いながら近寄ってきた風夢。彼女から少し、お酒の匂いが漂ってきていた。
「まさか風夢……!」
「クロさん大好き~♪」
すると、いきなり鬼狼に抱きついて、風夢が甘えてきた。風夢の腕が鬼狼の首に絡み付き、小さい身体が飛びついてくる。
「ちょ、風夢!」
「あははっ。クロさん~っ」
「誰? 誰ですか! 風夢に酒飲ませた人は誰ですか! この子酒苦手って、言ったでしょうに!」
「クロさ~ん。大好き~♪」
「いや、大好きなのはなんか嬉しいですが……って痛い! 我の首を絞めないで下さい! ちょっと痛いですから! ちょっと、汝らの中で誰が酒を飲ませたんですかぁぁぁぁぁあああ!」
酒癖の悪い風夢。元々酒には弱く、普段は酒を飲むのを断るのだが、どうやら無理やり飲まされてしまったようだ。
楽しそうに懐いてくる風夢に対して、鬼狼は苦しそうにしていた。だが少しだけ嬉しそうにも見えたのである。
村人達は、女性陣は楽しそうにはしゃいでいて、男性陣は少し羨ましそうな目で二人を見ていたのは無理もない。
炎は宴が終わるまで、激しく燃え続けていた。


空に響く笑い声は、月まで届くのではないかと思わせる程の『楽』。そして『哀』の感情が混ざり込んだ声であった。

~@~

揺れる。揺れる。
――炎は揺れる。
揺れる。揺れる。
――命が揺れる。
光は辺りを照らし。
人々は光を浴びて、影を作った。
人々の笑顔が映った。
人々の悲愴が映った。
人々の――憤怒が虚った。

――炎は消える。


宴を終え、鬼狼達は宿へ戻っていた。
酔いつぶれた風夢を、鬼狼は運んで自分達の部屋のベッドに寝かせる。
風夢は少し気分悪そうにしていたが、やがて心地良さそうな寝息が聞こえてきた。
鬼狼は我が子のように、風夢を見つめる。
「クロさん……」
沈黙した部屋に、子猫のような小さく愛らしい声で、風夢がそう呟く。鬼狼はピクリと身体が動き反応するが、その後風夢の寝息しか聞こえない。
寝言だと気付いた鬼狼は、小さく微笑むと、風夢の腰に差してある刀を外す。
更にサイドテールに束ねている髪留めのゴムをゆっくりと外し、風夢の服にある左ポケットに入れてあげる。
長く伸びた翠色の綺麗に光る髪。
軽く鬼狼は撫でてあげると、風夢は気持ち良さそうな寝顔を見せる。
「……やはり、似すぎていますね」
鬼狼は風夢を見て、どこか懐かしそうに言葉を溢す。
風夢の胸の所にポツリと置いてある、エメラルドの宝石。ネックレスになっているそれを鬼狼は手に取り、じっと眺めた。
「…………」
しばらく眺めた後、ネックレスも首から外してやろうと、鬼狼は手を動かす。
だが、何を思ったのか鬼狼はそれを躊躇った。
「――いや。これは我が外すべきではないでしょうね」
結局そう判断した鬼狼は、手をネックレスから引っ込めた。
風夢に毛布を被せてあげると、鬼狼も自分のベッドに向かって歩き始める。そして彼は倒れるように寝転がった。
鬼狼はそのまま、数メートル先にある揺らめく灯火に息を吹きかけ、明かりを消す。
「おやすみなさい。風夢」
鬼狼の声は、消灯した部屋に溶けるようにして空気の中へと消滅していく。


鬼狼達が床についてから、二時間後。
二人のいる部屋に黒い服に身を包んだ何者かが、息を殺して扉を開け、中に侵入していた。
一歩一歩、忍び足で音を潜め、やがて寝静まっている風夢の前に立つ。黒い服の男は何かを片手に持っており、それを上空に振り上げる。
手に映るのは……闇に一際鈍く輝く銀色の鉈。
「――すまない」
そう黒き影は囁き、凶器を風夢に――振り下ろす。
だが……鉈の刃は何かに遮られ、彼女を真っ二つにすることは無かった。
鉈を止めたのは――一本の腕。
恐る恐る腕の主を黒い影は視線を向ける。そこには凛とした鬼狼が、岩のように硬い腕で鉈を止めていた。
「何をしている。汝よ?」
「お前、確かに今寝ていたはずじゃ……」
「我は汝に問うているのだ。何をしていると聞いている!」
怯んだ影は咄嗟に、風夢の首を鷲掴みにする。
黒い影は風夢をベッドから引きずり出しながら、鬼狼と距離をとった。
「あぐっ……! がッ……!」
眠りから強制的に現実世界へと戻された風夢。今の状況が把握できず、恐怖で身体が硬直していた。
「風夢!」
「動くなぁッ!」
影が叫び、鬼狼は動きを止める。黒い影は鈍く鋭い鉈を、風夢の首に添えるようにして構えていた。
「動けばこの子を殺す。この子に直接的な恨みは無いが、私達の為だ。分かって欲しい」
「…………」
鬼狼は黙り込むが、瞳は相手を逃さず、今にでも相手を狩ろうかというような眼光。黒い影はその眼光に負けないように、鬼狼を脅迫している。
「さぁ、鬼よ。黙ってこっちの指示に従って貰おうか。さもなければ、痛い目に合うことになる……」
「汝。まさかその程度で我に勝った気になったのではないでしょうね?」
「は?」
鬼狼の黒い瞳が、風夢に向けられた。
風夢は鬼狼を見て、何をするのかアイコンタクトで伝わったのだろうか。風夢は両手を耳で塞ぎ、目を強く閉ざした。
そして、

「「「「「喝ッッッッッツツツツツ!」」」」」

その叫んだ言葉の通り、相手に喝を入れた。
強烈な威圧。
鬼々なる形相。
怒気なる咆哮。
一触即発の場面を、叫びを直視していた影は、ビクンと電流がはしったかと思わせるほど身体を硬直させる。やがて風夢の首を掴んでいた手は力が抜け、するりと離れ、黒い影は前にめり込むようにして倒れ込んだ。
風夢は倒れる影から離れ、両膝をつく。
「ごっほ、がっは……うぐっ……」
苦しそうに咳き込む風夢に鬼狼は近寄ると、背中を優しく擦ってあげた。
「大丈夫ですか?」
「う、うん。……いや、本当はあまり大丈夫じゃない感じだけど」
風夢は息を荒げており、吸ったり吐いたりして、呼吸を整える。
やがて呼吸は整ってきたのか、風夢は落ち着いた所で口を開く。
「それよりも、今の人は……?」
鬼狼は風夢から離れると、部屋にあるマッチで火をおこし、灯火をつけた。
光が満ちた空間で、風夢は影――黒い服を着た者の顔を見て、思わず声を漏らす。
「この人……!」
その反応を見てた鬼狼は、ゆっくりと歩を進める。そして黒服に包まっている者の胸倉をぐいっと手で引っ張り、相手の顔を凝視した。
その者は……。
「誰です? この男」
鬼狼は初見らしく、見知らぬ男であった。
風夢は顔に手を当て、唸るようにして呆れる。
「……ここの村人のだよ。その人」
「ん? 村にこんな人いましたっけ?」
「いたよ。てか、何度も私達に挨拶してくれた人でしょ。覚えてないの?」
「いや、さっぱりですね」
「――これだからクロさんは、もぅ……」
鬼狼は苦笑いして、風夢の不満をいつも通り受け流した。
風夢は髪がほどけていることに気がつくと、ポケットの中を探りゴム留めを見つけ出す。翠色の髪を、綺麗にサイドテールに纏める。
乱れた服装を整え、腰に刀を差すと、鬼狼にこれからどうするか問いかけた。
「どうする?」
「とりあえず、村人達に現状報告した方が良いでしょうが…………」

「どうやら。我らに味方する者はいないみたいですね」

えっ、と声を漏らした風夢をお姫様抱っこで持ち上げる。
そのまま部屋の窓を開き、鬼狼は空を見た。
勢いよく風が部屋に入り込んで来ると同時に、背後から部屋の扉が勢いよく開かれる。
「おい! こいつら逃げるぞ!」
怒声が響き渡る。
部屋に来た数人の男達。それら全て――この村の人間であった。
「何で皆……?」
「風夢。しっかり掴まって下さいね」
混乱している風夢を両手に抱き、鬼狼は窓から闇の底へと落ちる。
風が鬼狼と風夢の髪、衣服、そして――心を揺らした。
綺麗に鬼狼は地に着地し、風夢も地へと降ろしてあげる。
とにかく逃げなければと、風夢の本能が告げていた。
ここは危険。一刻も早く遠くへ……。
「クロさん、早く逃げ……」
「どこに行くんですか、風夢?」
「だから遠くへ逃げないと! ここは危ないから……ッ!」
「逃げる? 逃げ場なんて何処にあるんですか?」

「我らは既に――敵に取り囲まれていますよ」

鬼狼にそう言われ、風夢は辺りを見渡す。
月は雲に隠れ、闇に包まれていたが……風夢の超眼は闇に潜む者達を捉えた。――捉えてしまった。
暫し二人が動きを止めると雲が晴れ、月光が地上を照らす。
目の前に広がるのは……群れ。村人の群れが鬼狼達を囲むようにして、逃走路を無くしていた。村人の手には、包丁、鉈、斧、刀、弓、棍棒などの凶器が持たれている。
明らかに狂異的な状況だと風夢は判断すると、直ぐに刀を鞘から反射的に抜き、構えていた。
一方、この状況でも動揺しない鬼狼は、一歩足を踏み出す。その一歩に威圧がかかっており、周りの空気をピリピリと響かせた。
「これはどういう状況なのか。汝らの中から誰でもいいので、我らに説明してくれませんか?」
鬼狼は口だけで笑っており、目は真剣そのものであった。
夜にも関わらず、鬼狼の漆黒の眼光が黒光りを放っており、彼の周りには異端な空間が霧のように広がっている。
村人達は異端な鬼狼の様子に畏れているのか、ざわざわと騒ぎ始めた。
風夢は鬼狼の、まさに鬼の如く堂々とした態度で人々を威圧していくように見とれている。
「誰も説明できないのですか? ならば我らはこれで……」
「いえ、私が説明しますよ。鬼狼さん」
鬼狼の気迫のある発言を遮って、村人の中から聞き覚えのある者が前に出てきた。
「良一さん……」
「こんばんは。あなた達が死ぬには、余りにも綺麗過ぎる月ですね」

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