ほわいとあっぷる 【長編】鬼狼の物語 其の5 忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

    

【長編】鬼狼の物語 其の5

そこには、いつもの彼らしからぬ発言をする良一がいた。両手を後ろで組み、仁王立ちをしながら黒い笑みを浮べ、こちらを睨みつけている。
「村長! 危険ですから、お下がりを!」
「いえ、大丈夫です。村の者を守るのが、村長の役目ですから」
村人の男に村長と呼ばれた良一は、優しい物腰で男を押さえ込んだ。
「なるほど。汝が村長だったのですね」
「えぇ。今まで黙っていてすみませんでした。どうしても隠す必要性があったのです。私が殺されたら、村人、他の皆さんが困ると言っておりましたから。用心に越したことはないでしょう。あなたを……」
「殺す為には、ですか?」
鬼狼が良一の言いたいことを先読みし、良一はそれに対して表情を変えずにコクリと頷く。
彼の背後には、おどおどしている優子の姿が見えた。鬼狼にも良一にも怖がっているようだ。
しばらくその様子を観察していた風夢は、ようやく状況を把握し、冷静になった。彼女は鬼狼の前に立ち、良一に向かって質問をし始める。
「良一さん。あなたにいくつか聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「えぇ。どうせあなた達は死に至る存在ですし、何でも答えてあげますよ」
いちいち余計な一言を加える良一に、風夢は畏れと怒りを覚えていたが、敢えて何も言わず、
発言を続ける。
「ケサールを私達が取りに行った時。岩で私を殺そうとしたのはあなた達、村人達なの?」
それは前日の出来事。
ケサールを摘んでいる最中の風夢に向かって、上空から落下してきた岩。鬼狼達が橋を渡っている最中に、降って来た岩のことについてだった。
風夢は、この村の者がやったという確定的な証拠は持っていない。
だがそれでも、この質問を村人に向かってした理由は――単なる彼女の勘。
風夢はその勘を信じて、聞いているのである。
「そうですよ。岩を落としたのは私達です」
「あの橋を渡ろうとした時に設置してあった爆弾もなの?」
「えぇ。この村では高価で滅多に使用することのない時限式爆弾を使ってでも、村人達はあなた達を殺したいと願っているのですよ」
「……優子ちゃんも?」
風夢がそう聞くと、良一はしかめっ面して彼女を睨みつけた。少し風夢は畏れたが、それでも意識を良一に向け、畏れに負けぬような眼光で彼から視線を逸らさない。
「優子に罪はありません。ただ、私に言い聞かせられただけですよ。『ケサールを採る時は、二人から離れなさい』とか、『橋を渡る時は、必ず二人より先に渡り切りなさい』とかね。もちろん、遠隔操作型の爆弾を爆発させるスイッチは、こちらが持っていましたので、優子に危害は与えるつもりはありませんでしたし」
なるほど……っと、風夢は心の中で納得した。
優子は優しく良い子である。如何なる理由であれ、父親の言うことは聞くだろう。
理由を知らずとも、優子はその父親との約束を守る。その理由が、鬼狼達を殺すためだったとも知らずに……。
「では、本命の質問」
風夢は蒼色に発色する瞳を良一に向け、憤怒の表情をしながら口を動かし続ける。
「何故、私達を殺したいの?」
その問いは、今回の騒動についての問いでもあった。
何故、鬼狼達を殺したいのか? 理由は必ずあるはず。
ここまでして、何となく殺したいなどということは無いだろう。村人全員を動かしてでも殺したい。それなら、村人達と団結できるほどの理由があるはずなのだ。
だが風夢はともかく、鬼狼はもう――その理由はなんとなく気付いていた。
「あなたはもう分かっているのでしょう。人喰い鬼さん」
「…………」
「私達はもう我慢できないのですよ。定期的に人を喰う鬼。――村人を失う悲しみが分かりますか?」
風夢もそこまで聞けば、自分達を殺したい理由を理解することができた。
村人達はこの鬼である鬼狼が――ここの村人達を喰らう妖怪の黒幕だと思い込んでしまっているのだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
風夢が思わず叫ぶ。
「私達はただ旅をしている旅人。この世界を見たいだけで、この村の近くに居座って、あなた達を喰うようなことは……!」
「言い切れるのですか? 証拠はあるのですか? あなた達は昔からこの近くに居座り、私達村人を喰ってきた存在。……何故今、村人の前に現れたのかは分かりませんが、その夜にまた村人を一人喰らったではないですか!」
「違う! クロさんはそんな……そんなことしないよ…………」
良一の言葉の勢いに飲み込まれそうになる風夢。
溢れ出しそうな涙を必死に堪える。
「鬼の使い魔である悪魔さん。あなたにも、死んでもらいます。私は子を、村人を守らなければならない。そして……私の嫁の復讐でもありますから」
「――まさか、汝のお嫁さんは」
「あなたの仲間である鬼の殺した相手も覚えていないのですか。性質の悪い鬼ですね。……私の嫁はあなたに、――妖怪に殺されたんですよ」
良一の嫁が、亡くなった理由。それは、妖怪に殺され、喰われたからであった。
一人の夫と、一人の娘がいながらも、良一の愛した者は……この世から立ち去る。
良一は、鬼狼がその自分の嫁を殺した犯人だと思い込んでいた。
これ以上犠牲を増やさぬ為にも。愛した者の復讐の為にも。良一は、妖怪を誰よりも滅ぼしたいと思っている。
風夢そう、良一の気持ちを深く考え込んだのであった。
「だから、クロさんは……!」
「風夢!」
いきなり吼えた鬼狼。
その咆哮に風夢はビクリと身体を震わせた。風夢は首だけを動かして、背後にいる鬼狼に視点を合わせる。
「もういい」
「クロさん……でも…………」
「もう、いいですよ。――我は平気ですから」
鬼狼は風夢の前に歩き、顔を少し動かし横目で風夢に向かって微笑んでみせた。
だが、風夢が見ていたのは――月光を浴びて、悲しく光る一滴の水。鬼狼の黒に染まった目から、流れ落ちる涙だった。
鬼は血も涙も無い、酷く外道なる存在。

だが鬼狼は――鬼である筈の彼は泣いていた。

良一が命令すると、村人たちは一斉に鬼狼達を襲い始める。それぞれ手に、殺めることのできる武器を持ち、数人が突っ込んできた。
鬼狼は、風夢に気をつかいながらも、迫ってくる凶器を素手で殴る。または村人の武器を力づくで奪い取り、それを片手で軽々と握り潰していた。
殴っては、鉈の刃を粉々に粉砕。
蹴っては、矢を破壊し征圧。
掴んでは、刀を強奪し。
握り潰しては、刀を母なる大地へ還す。
まるで卵を割る時のように力を入れている様子は無いのに、それぞれの武器は灰のようにサラサラな物質に変化させていく。そしてそのまま鬼狼は村人の腹を殴り、次々と人々は倒れていく。
鬼狼は村人達を殺さないように手加減している。しかし、武器に対しては容赦なく鬼の力で破壊していった。この力で人を攻撃すれば、人間の身体など軽々と血肉の塊にすることができるだろう。
風夢は刀で相手の攻撃を受け止め、払うようにして相手を切り裂くことはなく、殴り倒していた。
彼女の刀が研がれていないのは――人を斬らない為であり、人を殺めない為である。
自分自身を守る為だけに、その刀は存在していた。
「前方右、刀、速度、時速百二十五・三……」
そう呟くと、風夢は適切な対応で村人の攻撃を受け止める。彼女は何故か見たもの全てを演算することができ、それは戦闘などに生かされていた。
村人の持つ刀を払うと風夢は勢いよく刀を振って、やはり武器破壊はする。だがその後に村人に対して攻撃するが、力を調節しているのか、撲殺しないようにしていた。彼女の動きは鬼狼から教わった我流が混ざった動きであったが、それなりに戦闘の心得が出来ている。
二人は『守る戦い方』をしていた。人を傷つけずに抑圧していく。それは、人を殺めるのよりも、圧倒的に難易度の高い戦闘方法。
それでも二人は、不器用ながらも、村人を捌いていく。
――二人の黒と翠の髪が踊る。
鬼と少女は力強く、煌びやかな動きをしていた。
「はぁ……はぁ……」
しかし、風夢は人間である。
何人もの村人を相手にしていくうちに、息がどんどん上がっていっていた。
元々、護身用として学んだものである為、こういう大人数に対して、風夢は不利的状況。
そしてそこに……。
「すまねぇな、鬼さん達よ。これでしめぇにさせてもらうぜ」
鬼狼と仲良く語り合った大雅が、己の体格よりも明らかに巨大である斧を持って、こちらに猪突猛進してきた。
鬼狼は振り下ろされる斧を、左腕で受け止める。斧は腕によって止められたが、少しだけ血が滲み出ていた。流石に今の勢いのある攻撃を、硬い皮膚だけで遮るのは、無理だったらしい。
「大雅さん。汝らと過ごしたあの笑顔は、偽りだったのですか?」
「鬼さんよ。これも村の為だ。……そして死んでいったあいつの為にも、仇を討たねぇでどうするってんだよ!」
大雅は、斧を鬼狼の腕から持ち上げると、横に靡くように振り、風夢を狙った。
「っ……!」
風夢は刀でそれを受け止めようとするが、巨大な斧をいくら研いでいない頑丈な刀でも、風夢の力では受け止めるのは不可能。力が違いすぎる。
そう判断していた風夢は、急いで避けようとするが、彼女は頭で行われた演算の結果、回避すら間に合わないという判決が出ていた。
「もらっ……!」
「やぁぁぁぁぁああああああ!」
その時。
急に大雅の脚に、何か小さな者が飛び付いて来た。
それは――優子。彼女が、大雅の脚に噛み付いていた。
「あだだだだだ!」
急に流れてきた痛みにより斧の威力は衰え、風夢は何とか攻撃を受け止める。
そして、鬼狼が巨大な斧の側面を一殴りし、粉々に打ち壊す。破片が飛び散り、酷く鈍い金属音が響き渡った。
「優子ちゃん……?」
風夢がそう呟くと、噛み付いていた優子は大雅から離れ、風夢に抱きついた。
「おい優子。何している? さっさとこっちに戻って……!」
「おかしいよ皆!」
大雅の言葉を砕くような大きな声が、夜の村に響く。
涙目の優子は、泣くのを我慢して、村人の皆に聞こえるような声で叫ぶ。自分の心の底で思い込んでいたことを、壊れた蛇口のように一気に吐き出した。
「鬼さんもお姉ちゃんも皆と仲良くやっていたし、優しくしてもらったじゃない! 一緒に笑いあったじゃない! 確かに鬼さんは怖いところはあったけど、それでも鬼さんはその後もあたしに優しくしてくれたよ!」
優子は一気に心の中に秘めていた気持ちを吐き出したせいか、滝のように涙が流れ始めた。
「鬼さんとお姉ちゃん……悪いことした証拠なんてないじゃないですか……」
ぎゅっと、優子は風夢に抱きつく。風夢はそんな優子を、優しく愛でるように撫でてあげた。
暫しの間、意識のある村人は何も言わずに下を見て、何かを考え込み始める。
村人達にさまざまな複雑な感情が入り混じり、困惑してしまう。
「……まぁ、優子の言う通りかもな」
大雅はそう言うと、ナッハッハッ! と高らかに陽気そうに笑った。
くるりと背後に振り返り、腰に手を当てて他の村人達に向かって語り始める。
「確かにあちらさんの証拠が無ければ、こちらも証拠は無い。――まぁ、あちらさんが本物の旅人なら詳しく調べれば何かしら分かるのかも知れんが……」
大雅は渋い声を出しており、そして更に低い声で続ける。
「だが。村人の一員である優子をよくしてくれたのは――紛れも無いあの鬼さん達じゃねぇのか? 俺達に酒をうめぇものにする為に、ケサールを積極的に採りに行こうとしたのも、あの鬼さん達じゃねぇのか?」
大雅自身も、鬼狼が仲間を喰らった妖怪だとは思い込んでおらず、不満があるような状態だった。
大雅の話を聞いているうちに、周りからピリピリとした殺気が煙のように消え去っていくのが分かる。
それに気付いた鬼狼は、戦闘態勢を解除し、ゆるりとしたいつもの彼に戻っていく。
「村長。あんたなら良く分かっているはずじゃないのかい? 優子をあんなにもよくしてもらっていたのを見ていたあんたなら分かるだろ?」
「…………」
「この感覚……、戦ってみてよく分かった。こいつらは悪いやつじゃねぇ。こいつら、自分も俺達村人も殺さねぇように、全てを守る動きをしてやがる。だからよ、村長。――もう鬼狼さん達疑うの、止めにしねぇか?」
大雅が村長――良一に向かって、提案する。
周りを見渡すと、村人達がもう戦う気が無いのも一目瞭然であった。
村人の意識があるものは、全て良一に視線を向けている。村人は、村長から命令をただ静かに待っていた。
「……そうですね。大雅さんの意見も一理ありますし、分かりました」
良一が鬼狼達にいつも向ける笑顔で、宣言する。
「今をもって、鬼狼さんと風夢さんの危険人物及び、処分命令を破棄します。――鬼狼さん、風夢さん。大変失礼な行為をしてしましました。本当に申し訳ありませんでした」


良一の宣言が終わると同時に、村人は鬼狼達によって気絶した者を、それぞれの家に向かって運ぶ救助作業が行われている。
鬼狼も手伝うとするが断られ、ゆっくり休むように言われた。仕方がないので彼は風夢の下に戻ることにする。
未だに風夢の腕の中には優子がおり、ずっとずっと泣き続けていた。
そこに、先程村人全員を説得させた大雅が近寄ってきて、鬼狼達の前に立つ。
「すまねぇな二人共。こんな目に遭わせちまって」
そう言って大雅は両膝をつき、両拳を地につけ、更に頭もつける。彼は、二人に向かって、土下座をしたのであった。
「こんなんじゃ許してもらえないだろうが、せめてもの報いだ。すまねぇ」
「――いえ、我は鬼。疑われるのも無理もない話です。風夢は大丈夫ですか?」
鬼狼はそう言うと、今度は風夢の意見を凛とした声で聞いてきた。
「私は結構ショック大きかったけど……クロさんのこと、皆に分かって貰えたので大丈夫だよ。ありがとう大雅さん。私達を助けてくれて」
それを聞くや否や、男はがばっと顔を上げ、手を前に出してブンブンと左右に振った。
「いやいやいや、感謝されても困るんだがなぁ」
「でも、それでもクロさんのことを分かってくれない人達もいる。私達はそんな人達を幾度も見てきたから。――貴方達は、自分を見直して過ちに気づいた。それに、村人を守る為に貴方達は私達を倒そうとしたんだよね。……守る為に戦う想いがある。この村は優しい人達が多いんだね」
長々と語った風夢の言葉を聞いた大雅は、頭をかかじりながら、苦い顔をしていた。
「……あんたら、本当に優しい心の持ち主なんだな」
「どうだろうね。まぁ、仮に優しいとしても仇になることも多いんだけどね」
そんな会話を風夢がしていると、鬼狼達の元に足音が近寄ってきた。
「お父さん!」
「優子……」
訪れた者は、村長である良一であった。足音の主が分かった優子は、良一のお腹に向かい、蛙のように飛び跳ねて抱きつく。すると同時に良一が薄く微笑み、優しく包み込むように抱きしめてあげる。優子は泣くのを止めて、心配させないようにか、良一に向けて笑顔を見せた。  
その様子を風夢は微笑ましく想いながら見つめる。危機が去って、二人共安堵している。
殺伐たる流れを、安堵なるものに変えてくれたのは紛れもないあの優子。彼女が全てを、この物語を変えてくれたのだ。
良一が優子を月に向かって高く持ち上げ、呟くように言う。
「あぁ、優子。愛しの優子。お前は本当に……」






「――ウザったい奴だな」






「――死ねよ。糞人間が」





ザシュッ……。

不気味な音が鳴る。風夢はその様子を一番間近で目の当たりにしていた。
月に紅が映る。風夢の泉のように蒼く澄んだ瞳に、紅が染まった。
風夢の顔に、ベチョリと生暖かく滑っている何かが飛んでくる。
それは、肉のような塊。
――生物の肉片。
誰の?
誰の肉片?
風夢は困惑していると、目の前に誰かが堕ちて来た。苦痛と驚愕によって、強制的に歪められた優子の表情。
彼女の腹は刃物で大きく切り裂かれた跡が残っており、そこからズタズタになった腸が風夢の目に焼き付けられた。
優子の身体から血が滲み出て、紅の泉を作り出す。
風夢の思考が今起こったことを、頭をフル回転させて処理する。
誰が?
ダレガヤッタ?
犯人は?
ハンニンハダレダ?
風夢は月を見た。宙で舞う血で塗られた、紅い月を。
そこにいたのは――優子の父親であるはずの良一。
片手に、血に染まった鎌を握っており、鎌にこびり付いた優子の肉片を舐めるようにして喰らった。
――彼は狂笑して優子を、まるでゴミを見るような目で見下している。

コノヒトガヤッタノカ?

「うぁぁぁあああああ!」
状況判断を僅か五秒で処理した風夢。
頭の回転が速い風夢は、人一倍速く、『怒』と『哀』の感情に襲われた。
そして冷静な対処ができず、無謀な行動にでる。
刀に血が滲むのではないかというくらいの握力で握り締め、良一の身体に向かって弧を描くように、月をなぞるようにして振り下ろす。
本来の風夢では考えられない行動。彼女は錯乱状態に陥っていた。
その風夢の攻撃を読んでいたのか、鎌の柄の部分で良一は受け止める。
破壊目的の武器である風夢の刀を、木で作られているであろう柄の部分で軽々と受け止めたことに、風夢は内心驚いていた。
「危ねぇじゃねぇか、女ぁ!」
右手で受け止めたまま、良一は左手にもう一つの鎌を握っていた。さっきまで一つしかなかったはずなのに、鎌は二つ存在している。
風すらも切り裂くような速度で、鎌は風夢を殺しにかかってきた。
が、その鎌は届く事はなく、快音が鳴る。
ただぶつかり合ったのは拳と鎌であり、金属同士での快音ではなかった。
音だけ聞いていてその状況を伝えたら、確実に嘘だと言われるだろう。鬼狼の拳は鎌を捕らえ、風夢の方に向かって飛び交っていた鎌は、強制的に上に向かって進行方向を変える。
そして、次の瞬間――。

ドゴォッ……!

鬼狼は良一の腹に、手加減無しの拳を叩き込んだ。
爆音が咆えるように、夜の空へと共鳴する。爆風と共に良一は後ずさりをし、地を足で抉っていく。
「ク、クロさん。本気でクロさんの力でやったら……!」
「あぁ、人なら死ぬでしょうね」

「人ならば……ですが」

そう鬼狼が言った直後、地を削っていく音が止まった。
そこには地に伏せてはおらず、二本足で堂々と立っている良一の姿。
彼は……ニヤリと怪しく笑う。
良一は……人間の身体とは思えない頑丈さだった。

彼は――人間ではない。

~@~

良一は人間だった。
この村で生まれ、この村で育ってきた青年。彼は人一倍優しい人間で、村人にも好かれている存在だった。
やがて、良一はこの村の村長の娘と結婚。愛しい嫁と一緒に平和な日々を過ごしていた。子供もでき、良一は宿の経営をしつつも、次期村長となり、この村を支えてきたのだ。
そんなある日……彼の愛した嫁が、妖怪によって喰い殺されてしまう。
良一は、大切な物を一つ失った。
彼は見た。鋭い鎌を二つ両手に携えて人間に化けている妖怪を。
彼は見た。自分自身とそっくりに化けていた妖怪を。
怒りは――内なる腹の底から湧き出てきた。
そして良一は、復讐の為妖怪に戦いを挑み……。

――そして…………。

拍手[0回]

PR

    
  

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Copyright © ほわいとあっぷる : All rights reserved

「ほわいとあっぷる」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]