ほわいとあっぷる 【SS】スクランブルの死線(一部公開) 忍者ブログ

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【SS】スクランブルの死線(一部公開)

スクランブルの死線


例えば――の、話。
人の死を操れる力を手に入れたら、君達はどのように活用するだろうか?
誰にも自分が殺したのだと疑われず、完璧なアリバイを持つことができたとしたら。
傍若無人に人を裁くことができたとしたら、君達はどうする?
その力は自分を守るために使うのか、大切な人を守るために使うのか。
善人を無差別殺害し、己の理想郷を築き上げるのか。悪人を裁き、己を神かのように振舞うのか。
人それぞれで、使い道は大きく変わるだろう。

さて、そんな話を踏まえた上で、本題に入ろうかな。
偶然にも――いや、必然だったのかもしれない。僕は人の死を操れる人間に出会った。
触れることも、近寄ることもなく、人を殺せる人間。この世に存在してはならない――女子生徒に出会ったんだ。
それが丁度、3年前。僕が中学に入学する頃だ。彼女は図書館で、誰にも関わらないようにして引きこもっていた。
自分の世界に閉じこもり、毎日飽きもせずに読書に励んでいたその様子は、儚げでより一層、彼女は孤立してように思える
そんな彼女と巡り会ったのは、本当に奇跡なのだろう。
その頃の僕は、恥ずかしながらも現世とおさらばしたがっていた少年だった。
要するに、当時の僕は自殺願望者。この世に絶望して、失望して、死にたがっている少年。それでも自分で死ぬことができず、誰かにすがりつこうとして、殺されようとしている駄目な人間だった。
だからこそ僕は、一生。この気味が悪い自分の人生を変えることができないと感じていたのだからこそだろうか。
彼女と出会った時は、本当に歓喜したものだった。万歳三唱をしたものである、心の中でね。
そんな彼女からこんな僕に対して、1つ大きなプレゼントをくださった。
僕にとっての、救いの言葉をくれたんだ。

「あなた、何かムカつくから殺すね」

ん、え……? …………あ、はい。
マジっすか。
てことで、そんなわけでして。
どうやら僕は死ぬらしいです。皆様方。
ウワーイ。これで腐れきった世の中から、おさらばだー。
やったー。ちょーうれしー。いやっほーう。

だけど、先程話したとおり……これは3年前の話である。残念なことにね。
本当に困ったものだ。この時、僕は死ねなかったんだよ。――願い通り、僕の人生は大きく変わったけど。

ん、ところで一体僕は何者かだって?
そうだな……。しいて言うなら僕は、人々に英雄などと呼ばれ続ける人間。
この世で哀れと呼ばれる人間の1人である。
そして、これから語られる彼女もきっとそう――僕と同じ、哀れな人間の1人なのだろう。


第1章『堕ちる』


梅雨時のむさ苦しい暑さを感じる時期になってきた。
僕の名は奏真(そうま)。冥桜高等学校という高校に通う、ごく普通の高校生である。
冥桜高校とは、別に有名校という訳でもなく、ましてや不良校とかそんな物騒な高校ではない。
田舎という訳でも無く、ましてや都会という訳でもないような町にたっている高校だ。具体的にどんな所かって言われると、出身校の住所が特定されそうで怖いので、省略する。
この高校は普通科に、農業科、情報処理科の専門学科に分かれており、これもまた、そこそこの学歴で卒業して行く。だから、この学校がおかしい所は何一つ無いと言ってもいいだろう。ちなみに僕は情報処理科だ。
奇妙な所をしいてあげるとするならば、在校生はどこかの部活に必ず所属しなければならないという校則が無いのにも関わらず、8割近くの生徒がどこかの部活、または同好会に所属していることだろうか。
そんな僕も空手同好会というものに所属している、至って健康的な生徒だ。こう見えても、過去に空手をかじっていたもので、初段を取得している。まぁ、今はどうでもいい話なので考えないでおく。
ま、そんな訳で。
平凡でどこにでもありそうな高校――冥桜高校に入学してから2ヶ月が経過した。
そろそろ生徒達は高校生活に慣れ始めて来ているのだろうか。入学当時の真面目さはどこにいったのやら、やる気が無さそうにダラダラと授業を受けて学生としての本業に取り組んでいる。
先生達もそんな生徒達をしっかり指導しようと注意を促すものの、そんなことのいうことを聞く生徒なんて、せいぜい1割以下。本当にいい子ちゃんか、ただ単に叱られたくないだけの怯え者くらいだ。

そして、適度な勉学に励んでむかえた昼下がり。
僕はコンビニで事前に買った弁当を携え、教室をでてから左折しては廊下を真っ直ぐ進む。
冥桜高校は3棟に分かれており、僕の情報処理科は2棟の2階にある。
その二階の廊下を真っ直ぐ進むと、1階へ降りる階段と、1と3棟に行く渡り廊下が左右に伸びている。左が1棟で右が3棟だ。
用事があるのは1棟の二階なので、ここは左に進むことにした。
その先は、1棟と2棟を繋ぐ渡り廊下。左右に大きな窓ガラスが張られており、太陽の光が差し込んでいる。ベンチも用意されていて、休み時間に日向ぼっこするにはうってつけの場所となっていた。――大概が女子生徒かカップルに占領されて、男子生徒としては何とも通り辛い場所でもあるのだが。特に今はこの高校内で有名な女ヤンキーが、か弱そうな女子生徒をいじめているみたいで、居心地が悪い場所になっている。割と良くある光景なので、歩みを止めることなく、僕は目的地に進むことにする。巻き込まれても困るし。僕はそんなお人好しではない。
で、そんな恐怖心しか生まれない渡り廊下を過ぎると、また左右に廊下が伸びており、正面に上に上る階段。この階段は屋上へ行ける、唯一の階段である。最も、その屋上も入学したての生徒達が一時期珍しがって行く時以外は、誰もいなかったりすることが大体だ。その内、屋上に行くのも億劫になり、飽きる生徒ばかりでなのだから。誰かいたとしても、カップルか怖い先輩達だろう。
っと、屋上にも行く訳では無いので、私は左に伸びる廊下へと足を向け、歩き出す。1棟の二階の大半が普通科の教室だ。 
そんな私の進む廊下の突き当たりに、他の教室よりも2~3倍程広い部屋がある。そこはまぁ、一般の教室でも無く、先生達が利用している職員室でも無いわけで。それなりにスペースを使っている理由がある部屋である。
入り口の扉を横にスライドさせ、上履きから室内に備わっているスリッパへと履き替え、上履きを近くにある靴箱に丁寧に入れた。
目の前にはそりゃ嫌というほど棚に収納されている本。ブック。本。ブック。日本語と英語を交互に言ってみたが、別に深い意味は無い。
中央には長方形の大きな机と、椅子が綺麗に並べられている。その周りを囲うようにして、大きな棚が天井近くまでそびえ立ち、そこにこれでもかってくらいぎっしりと本が詰め込まれていた。一部の本棚は、お勧めの本とか書かれている。見やすく表紙をこちらに向けて、こんにちはと言わんばかりに自己主張させている訳だ。
もうお分かりだろうが、僕が訪れたこの場所は図書室である。本を保管する為にはそれ相当の広さ、そして人が座って読書出来るようなスペースを取る為に、他の教室なんかよりも広々としていた。
それで、僕はこんな場所に弁当を持って来た訳なのだが。ご存知、常識人ならば分かるだろう。ここは飲食禁止ルームだ。弁当を持ってやってくる場所ではない。そのくらいの知識は僕も持ち合わせている。
んなら、お前は常識外れなことしようとしてんだよ、ヤンキーなのかコノヤローと言われそうですが、決して常識外れなことをする為にわざわざこんな所まで来たわけではない。
「怜(れい)先生ー、いますかー?」と、僕は図書室全体に響くように出来る限りの美声を放ってみる。実際、そこまで美声ではないが。
「あ、はい! いるよ! いますよ! ちょっと待ってね! 13秒待ってね!」
怜先生の為なら3分間でも待ってやりますよ、と言おうとしたが、色々とまずい気がしたので止めておこう。
そんな思考遊びをしている中、カウンター奥の扉から怜先生が慌てるようにして現れた。
この黒髪ショートの眼鏡が良く似合う女性は、怜先生。単刀直入にいうと図書の先生だ。いかにも若い頃文学少女でしたって雰囲気をプンプンと匂わせている。なかなかのスタイルの持ち主でセクシーではあるのだが、服装が地味で活かしきれてないのが、個人的に残念。
あんまり人には逆らうのが苦手なようで、生徒にはいつも弄られては困っているようだ。
「奏真君いらっしゃい。今日もあの子は来ていますよ。ささ、こっちにどうぞどうぞ」
さっそく生徒である僕に媚びるようにして、僕を誘い入れる怜先生。
一応、カウンター奥のそこは、先生専用の休憩室だったはずなのだが……。
「怜先生。そこ、先生専用の休憩室なのに、そんな簡単に生徒入れてもいいんですか」
一応そんな風に問いただしてみることにした。後で、他の先生にばれて怒られるのも面倒ではあるからな。
「え、でも、何かもう、いつもあなた達来てるものだし。私の注意なんか聞かないですし……」
「いや、僕はそんな――」
「いいですよ、もう、どうせ私の指導なんて、誰も聞かないんですから……いいですよ……」
「いやだから、僕は別に言うこと聞かないとは言ってな――」
「いいんですよ。もう、いいんですよ。もう、死んでしまえ、皆、死んでしまえ、皆」
先生ともあろうものが、生徒に向かって死んでしまえとは……怜先生は純粋だなーもぅー。
この様子からして怜先生、また生徒に苛められたんだな。まだ若いし、弄った時の反応が可愛いと、妙な噂が男子の中で流れているから仕方ないのかもしれないが。
「あぁ、とにかく奥に失礼しますね」
「いや、ここは先生としての威厳を見せます! きょきょきょ今日はははは、ざ、残念だけどどど、この先は進めさせません! ちゃんとした場所で弁当を食べなさい! しっし!」
怜先生はカウンター奥の扉の前に立つと、両手を広げて僕の進行を封鎖した。ブンブンと顔を横に振って、僕を追い返そうとしてるが、何か顔が引きつっていてしまりが無い。いつも会っている僕ですら、恐怖心を覚えているんですか。生徒になれないとこの先やっていけませんよ、先生なんだし。えぐえぐ言わないで下さいよ、狙ってるんですか色々と。
しかし困ったな。あいつに会いたかったものなのだが……。
仕方ない。別に用事は無いし、次なる機会に託すことにしよう。たまには弄られっぱなしの怜先生に、威厳というものを与える為に、退却するのも悪くない。僕だとはいえ、勇気を持って発言してきた怜先生の努力を無駄にさせる訳にもいかないだろう。いやー僕って素敵な男だなー。良い生徒だなー。
「分かりました、先生。今日の所は帰らせてもらいますよ」
「え……。いいの!?」そこまで驚かなくてもいいじゃないですか。
「え、えぇ。いいですよ。構いませんよ、今日は何か怒られるのは嫌ですし」
正直この先生に怒られても、シャボン玉がぶつかる程度の威力なのだけれども。迫力無くて、本当に怖くない。
「そ、そうよ! 今日は、ここの奥は先生の部屋! そう! だから駄目! 駄目なのよきっと! 駄目だよ!」
何でそんな曖昧なんだ……。僕みたいな人にそこまで恐れないで下さいよ……。
ともあれ、今日は仕方なく帰ることにしよう。昼飯はクラスメイトの冥太とでも一緒に食べようかな。まだ食い終わってなければいいが。
先生に一言、さようならと挨拶し、また上履きに履き替えた時だった。
「あんたが生徒に口答えするなんて、珍しいじゃない」
あいつの声が聞こえた。
冷たくて、氷柱のように尖っていて、悪意に満ちた声色。
ふむ。今日は読書に勤しんでいるわけでもなかったのか。僕達の会話が聞こえていたとは珍しい。
振り返ると、ガタガタと震えながら怜先生が奥の扉――声の聞こえた方を向いていた。
「だけど、そいつは私に仕えるいつもの客よ。やな奴だけれどもね。だからここに入れなさい」
「で、でも、ここは私、図書の先生だけの休憩室であって――」
「私に口答えするの、怜ちゃ~ん?」
「御免なさい! 御免なさい! 御免なさい!」
――やっぱり、怜先生相変わらずだな。
生徒に勝てない先生って失礼だけれども、哀れにしか見えない。本来は逆の立場でならなければならないのに。
ま、あいつには逆らえないだろう。死にたくないのならば誰だってそうだ。
左目が覆いかぶさるくらい黒の長髪で、黒の制服を纏った彼女の名は、璃奏(りかな)という。

彼女は――憎しみで人を殺してしまう、本当に哀れな人間である。

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