ほわいとあっぷる 【長編】瞳を見据えて その2 忍者ブログ

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【長編】瞳を見据えて その2

「ただいま」

 私は家に帰ってくるなり、そんな独り言を言う。誰も居ないことは分かっているとはいえ、家にあがる前にただいまと言わないと何となく嫌な感じがする。もしかしたらパパが仕事を終えて、私より早く家に帰ってきているかもしれないと考えるとなおさらだ。ただそんなことは滅多にないので、結局「おかえりなさい」という返答の代わりに沈黙だけが部屋に残っていた。

 リビングにある大きなテレビが誘惑しリモコンを取ろうとしたが、宿題を終わらさなければと我慢することにし、手を引っ込めた。リビングを抜けて、二階へ上がり自分の部屋の扉を開けた。ベッドの上にカバンを投げ捨て、窮屈でしかたない制服を脱いでハンガーにかける。そしてこれとこれっという感じで、棚からジャージとTシャツを適当に選んで着替えると、おもむろにベッドに寝転がって一息ついた。

「はぁ~、やっぱり家は天国だ……」

先ほどテレビを付けてだらけようとしたのを我慢してきたというのに、結局これである。拘束から解放される瞬間というものは、どうしてもだらだらとしたくなるものだ。ぐっと背伸びすると力を抜くと、頭がぼーっとしてくる。今日も社会の授業はつまらなかっただとか、移動教室のこと忘れていて恥かいてしまっただとか、彩月は相変わらず可愛いやつだなだとか、一日の出来事を一通り振り返ってみる。やはり最近の私は落ち込み気味で、今日のことを思い出すとちょっと鬱になってきた。そんな虚しさを感じたところで、身体をゆっくり起き上がらせた。ベッドの上に投げ捨てた鞄とともに勉強机に向かい、宿題に取り掛かることにする。

 途中、数分の休憩を挟んでニ時間程度やっていただろうか。宿題のついでに明日の授業の予習も済ませ、キリのいい所で終わらせた。時刻は午後六時過ぎになっていた。一階に降りてリビングのテレビをつけると、ソファーに寝転がって携帯ゲーム機を起動させる。このRPGのゲームは既に二回クリアしたのだが、久しぶりに最初から遊びたくなり、宿題を終わらせた後の息抜きとなっていた。こうやってテレビの音声を聞きながら旅の続きを始める。懐かしいなぁと、一つ一つの大好きだったシーンを見返し、主人公たちのレベルを上げていく。一定のレベルに達すると話を続けて、強い敵をどんどん倒していく。時には力づくで、時には戦略を考えて、時には興味本位で新しい戦い方を試してみたりして、お話の続きを見ていく。様々な仲間とともに旅を続けていくこの感じが、私は好きだった。仲間を信頼して、支えあったり、時には喧嘩して、その後仲直りしたり……そんなことを私もしてみたいと何度思ったことか。でも、現実ではそんな関係を誰とも築くことができなかった。何度か周りの子達と会話を試みたことはある。ただ、将来のことを話そうとしてもそんな未来のことなんてまだ分からないよだとか、悩みごとを話しても本当に解決させてくれる気あるのかよっていう回答だったり、勉学に対する姿勢も適当だったり、なんだか周りが子供染みていると感じてしまって、いつの間にか同年代の子に話を合わせてあげるような、そんな人間になっていた。

 そんな妄想をしながらゲームを楽しんでいると、メールの受信音が私の携帯から流れだした。

「もうそんな時間か……」

 ゲームをスリープモードにしてお腹の上に置きテーブル上にある携帯を手に取る。確認すると、そこには「もう少ししたら仕事終わりそう」とパパから送られてきたメールだった。今日は残業が無かったのか、早いな。私は携帯とゲーム機をテーブルの上に並べて置くと、台所に移動してエプロンに手をかける。今晩はカレーにしようと決めていたから、予定通りそうしよう。いつも通り、私は晩ご飯を作り始めるのであった。

続く

前の話<その1>

次の話<その3> 

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