ここで、璃奏の過去をお話しよう。誰が聞いているのか分からないけどね。
璃奏の両親は、ずっと昔に他界している。
何故彼女の両親が死んでしまったのか。それは璃奏が生まれてすぐ、殺したからなんだ。
先刻僕は、彼女のことを憎んだだけで殺してしまう能力と話しただろう。
全てはそれが元凶。それこそが、彼女が両親を殺してしまった最悪の過ちといえる。
ただ、人によってそれはおかしいのではないかと思う者もいるのではないだろうか?
どうして璃奏は、両親を殺そうと思ったのか。原因は何なのだろうか、と。
ま、想像がついている人はついているだろうが。彼女は生まれつき人から忌み嫌われていた存在。
それは両親でさえも例外ではなく、彼女を拒んだのだ。
何という運命の悪戯。彼女は生きていること自体を拒絶された者だったんだよ。
やがて彼女は、両親を憎んだその数分後。彼女の両親は互いに首を食いちぎって、死んだ。いや、殺された。
璃奏の話によると、当時はその秘めた力と能力に気付いてなかったらしい。
その後も視界の中に入る人間達が、璃奏のことを忌み嫌い。度を過ぎて彼女にくってかかった者は全て殺された。
やがて彼女は心を閉ざし、人と接するのを止めてしまったのである。
しかし、璃奏は諦め切れなかったのだろうか。普通の日常というものに。人の温かさというものに。
学校にだけはしっかりと通い、図書室に居座るようになった。歪んだ学生生活だっただろうが、彼女は日常を取り戻す為に、他の人間と少しでも変わらぬ生活をこなしていたのだ。
辛くはなかったのだろうか? 苦しくはなかったのだろうか? 何故彼女はいままで自害せずに生きてこられたのだろうか?
そう思う者がいたとしても無理はない。璃奏は僕と出会うまで、全人類に否定され続けてきた生物といっても過言ではないのだから。
そのことについて、興味本位で僕は璃奏に聞いたことがある。どうして君は今まで死なずにやってこれたのか。何故、今でも君は生き続けてこられたのか。
すると、彼女は面白いことにこういったんだ。
「下等人間ども如きに、何故私が殺されなきゃいけないの? 何故私がそんな奴等の為に死なないといけないの? あなた、そんなふざけた質問をどうしてしてくるの?」
――っと、ねぇ。
璃奏は、自分以外の人類に殺されることをまた、忌み嫌っていたんだよ。
人類が彼女を嫌ったように、彼女は人類を嫌ったんだ。
そして探していたんだ。彼女と同じ、下等人間を超えた存在ってやつをね。
ま、結果的に僕がそれだったらしい。普通じゃないとは、薄々気付いていたけれども。
璃奏を殺してくるものがあらば、その前に殺してしまえばいい。危険物は排除すればいい。ゴミは燃やせばいい。そして――下等人間は滅びればいい。
彼女の思考はまさに魔女であり、絶対的であった。逆らおうとも敵うものか。彼女は人知を逸脱した存在なのだからねぇ。劣等種如きが彼女に勝てると思ったらそうはいかないんだ。
でも、そんな彼女なんだけれども、本当は優しい心の持ち主なんだよ。だって璃奏は、僕と出会った時に――。
「アチョー!」
「おっとっ」
突如、無慈悲な拳を入れてくる野蛮な少女に対し、するりと左に受け流してみせた。
方向を変えた拳は僕の身体を避け、空を切る。
舌打ちをした少女は、拳を収め、ポニーテールを揺らせてこっちに指を刺した。
「ほらほら、ぼーっとしてないで、お前も指導しろってーの」
えっとだ。とりあえず彼女のお話は終わりにして、現実世界へと戻ろうか。
現在の時間帯は、放課後。昼休みにブラックコーヒーを買った後に、璃奏とのんびり休息を堪能した後、掃除、授業という流れでこれもまた面倒で退屈な時間をぼーっとこなしていた。こうは言っているものの、一応授業は聞いてはいる。
そして放課後と言ったら、帰宅か部活動ってな訳なのですが。前にも言ったとおり、僕は空手同好会というものに所属している。
空手同好会は、ここ武道館で活動していた。ちなみに武道館は一棟手前に校庭がと体育館があるのだが、その体育館の裏に存在している。割とどうでもいい情報だね。
武道館の中は、しっかりと床に畳の敷かれてあり、僕ら空手同窓会の隣では、柔道部が受身の練習を行っていた。なので僕達の気合と柔道部の気合が混ざって、騒がしい場所だったりする。梅雨時の蒸し暑さが、上昇するかもしれない。
初段取得者の私は、この同好会の指導者というレッテルが今、目の前にいる少女によって張られているのであった。はい、ここまでのあらすじ終了。
このいかにも元気が取り柄って感じの少女は、紅梨(こうり)って言うんだ。以後よろしく、皆。
こいつとは幼稚園の頃からの幼馴染で、彼女とは長い付き合いでもある。
元気でハツラツとした女の子であるが、ただのおなごとは一味も二味も違う。
僕と同じ道場で空手を学んでいた少女ではあるが、何とその道場の娘であり、僕よりも随分前から通っていたという。
そのせいか、高校生でありながら三段を会得しており、僕なんかよりも2つも桁が違う格闘家なのである。どうだー凄いだろー。
そんな化け物……いや、止めておこう。彼女、怒らせると怖いし。
そんな彼女が何故、この学校で空手同好会なんてしょぼい部活動に入部しているか。
実は紅梨はこの高校に通う際に、あまりにも自宅とはかけ離れていて、1人暮らしを余儀なくされてしまったのだ。
その為、彼女は独自に日々の精進を怠らないようにと、空手同好会を強引に結成し、作り上げたのであった。本当はちゃんとした部活動にしたかったらしいが、ちゃんとした先生がいないし、仕方ないだろう。
そして僕が入部している理由はというと、彼女と同じ日々、己の修行を精進しようと思い、入部した訳では決してありません。残念ながら。
彼女に無理やり入部させられたのだ。しかも、幽霊部員ってやつも許されないらしく、仕方なく彼女の言いなりになっている。ま、元々空手自体は嫌いではなかったし良いのだが。
それもあってか、私は副部長。そして紅梨が部長だ。この二人が卒業した後、空手同好会はどうなるのだろう。多分即、廃部になるんだろうな。それか、来年当たり、入部してくる後輩達に全てを叩き込んで受け継がせていくのかどちらかか。本格的にみっちりと教えそうかな、紅梨のことだから。
ま、道場とは違って別に本格的なことはしない為、僕でも指導出来ると言う訳だ。少しサボっていたけどね。
「だって、お前がいれば全部指導しきれるじゃないか。三段黒帯の凄腕さんなんだから」
紅梨の意見に対し、僕は易しめの反論を試みた。
「だってじゃないだろ? ウチだけじゃ大変だって言ってんのさ! ほらほら、さっさと立った立った!」
結果、2倍のカウンターで跳ね返ってきた、そんな感覚。
ちくしょー、何でこうも僕は言い伏せられるんだー。英雄を舐めてるのかごらー。
ヘイヘイっと、気だるい返事をして立ち上がって背伸びをしてみる。とろとろするなと紅梨に背中を叩かれて、急かせられた。人使いがあらいものだ。
次に自主練に励んでいる生徒達を見渡してみる。この同好会の部員は全員で六人で僕と紅梨以外はなんちゃって空手入部希望者だった。
残りの部員四名が、何故こんな胡散臭い部活動に入ったかというと、僕と紅梨に憧れたってのが大きいらしい。僕はともかく、彼女も憧れる存在になっているとはまた、随分立派になったものだな、彼女は。小学生の頃とは比べようにならない位、ナイスバディになっているし。先程から女子に対しての着目点が本当におっさん視点でしかないね僕は。参ったものである。
ただ、今日は部員が一名休みで、それに対して僕も少し違和感を感じている所だった。
その子なんだが……。
「あっ、そういやさ。今日何で冥太のやつは休みなんだい? お前知ってんだろ?」
っと、まるで台本通りのタイミングで紅梨が話しかけてくれたな。話のテンポが楽になって助かるよ。
彼女が仰るとおり、冥太もこの同好会の部員で、急遽休んだのである。
彼は僕に巻き込まれるようにして入部してきた……というよりも進んで入ってきたんだっけ。どっちでもいいや。
昼休み彼と会話を交わしたことは、幾ら忘れっぽい僕でも覚えている。ま、忘れる所って大体どうでもいい所ばかりだから気にならないけど。
それで、何故彼が部活を休んでいるのかについてだが。これは紅梨に伝えておかなきゃいけなかったな。面倒だから忘れてた。
「それがさ、冥太。早退したみたいなんだよ」
「早退? 何だ。体調不良って訳だったのかい」
「いや、それがまたさ……。僕、昼休みに彼と共に図書室で元気に話してたんだよねぇ。でも次の授業じゃ、体調不良で早退だとか先生言ってたし」
「はぁ……。サボりってこと?」
「いやどうだか。彼がサボタージュとかする性格に見――」
「見える訳ないじゃんか。超、草食系男子っぽい感じだし」
被せて話してくるなよ、間際らしい。
でも確かにそうなんだよなぁ。コーヒー買いに行って帰って来た時には冥太はいなかったけれども、あんなに元気だったから体調不良とは考えにくい。
冥太が授業サボるような勇気ある少年だとは思えないんだけどねぇ。まぁ、僕は授業サボるのに勇気なんてものがいるのだろうかとか思っちゃうんだけど。
「ってな訳で、僕の信頼なる友達が来ていないので僕は絶不調ってやつなのですよ。紅梨さん、指導任せました」
「それは全然理由になってないけどな、お前」
「駄目……?」
「可愛く言っても駄目だっての。てかきもい、どあほ」
本当に汚らしいものを見るようにしてこっちを見下している紅梨。うわーん、どあほとか言われたー。怖いよー。
分かりました分かりました。やればいいんだろう、やれば。
自主練をしていた生徒達を手を叩いて、集合するように促した。すると彼らは素直に従って、横一列にと、綺麗に並んだ。僕らと同い年なのに、こんなに素直に受け入れてくれると、何だか気持ち悪さすら覚えてくる。あ、別に悪い意味じゃないんだけどね。褒め言葉の表現としてはどうかと思うかもだけど。
「はい。んじゃ、基本から。四股立ち、用意」
ま、冥太については家にでも帰ってから、メールで連絡でも取ってみるとしよう。
今はまず、あの暴力姉さんの言いなりでもなっておこうか。
あー、これが璃奏だったらどんだけ喜ばしいことだったのやら……。
現実とは非情なりとはこのことだろうか。
まぁ、今はそれなりに平和な時代になったものだけどね。
まったく持って、喜ばしいことだよね。君達もそう思わないかい?
~@~
部活動が終わる頃には、すっかり日が東に傾いていた。
璃奏と一緒に手でも繋いで帰りたいものだが、生憎図書室は部活動が終わる時にはとっくにしまっているらしく、彼女も帰宅している場合が多い。あ、分かっているだろうけど、璃奏は帰宅部所属だ。
あいつと会える時っていったら、休み時間と昼休み。たまに休日と言った所だろうか。本当に気まぐれで彼女から誘われたりする。大体何かの買出しついでが多かったりするけど。要するにパシリ目的。でも、本当の所は僕に会いたいがために作った口実に過ぎないだろうなぁとか思うと、胸がきゅんっとしてしまう。実に自分、きもいな。
「てなわけで、璃奏が相手してくれないので、僕は暴力女と一緒に帰宅中なのであった」
「誰が暴力女だ、誰がっ」
うぉ、想像していたことが勝手に口から出てきた。わざと出したんだけれども驚いてみたりする。
交通の多い街中を先程、共に部活動をしていた紅梨と歩いていた。
幼馴染ということもあり、お互い遠慮なく会話出来る所が仲良しと見られるが所以なのだろうか。実際、僕自身も彼女とは仲の良い友だとは思っている。
女子高生と一緒に下校出来るというのは、他の人から見たら羨ましいことらしいが、僕は全く持って微塵にも嬉しさが込み上げて来ないでいた。何か慣れてしまったせいなのかも知れないな。
おいしそうなパン屋の横を通り過ぎた所で、流し目で紅梨を見つめてみる。
そこには俯き加減に、眉をしかめて髪を弄る彼女の姿がそこにあった。
何だ。気分を害してしまったのだろうか。……暴力女って言ったのは流石にまずかった?
そりゃ、女の子ではあるし、悪いことはしちゃっただろうな。僕としたことがやり過ぎてしまった。
そこの所はしっかり謝っておくか。口を滑らし過ぎた。
んっん~ん、っとわざとらしく喉を鳴らし、僕は彼女に侘びの一つを入れようと、話しかける。
「すまん、流石に口を滑らし過ぎた」
「……ぅ? えっ? な、何がさ?」
僕の謝罪に対して無言でいた彼女が、急に話をふられたのに驚いたのか、双眸を大きく見開いて、こっちに視点をうつした。
「いや、君を暴力女って言ったことだよ。悪かった」
「あ、えー……まぁ。そうだな。でも、まぁ、いつものことじゃないか。そんなに気にしてないさ」
素敵な笑顔をこちらに向けて、そんな返答をする紅梨。
いつものこと…………か。
ま、確かにいつものことだったのかも知れないな。お互い罵りあって、何だかんだでやってきた仲だったし。
僕を嫌いにならず、本当に好いてくれた人でもあるからね。幸運の何者でも無いな、僕は。こんな長期に渡って続く友達なんて、滅多にありはしない。
「ウチもさー、英雄であり命の恩人であるお前に対して、拳ぶち込んだり蹴り入れ込んだりしようとしているってのは失礼な話だと思っていた所だったよ。本当に御免な」
「あぁ。確かにそれは恩人に対してする行動とは思えないよね」
「悪いとは思ってるけどさー……。お前見てると妙に小突きたくなるんだよ」
「う、うーん……小突くとかいうレベル超えてないだろうか。僕の間違いでなければ」
「結局奏真はさ、ウチの技を一切受けないんだもんな。変なやつだよ、お前は」
僕の反論に関しては、スルーかこの野郎。
それにしても、変なやつ――かぁ。
寧ろ人間じゃないんじゃないかと、生まれた頃からずっと思い続けている。下手すると生まれた前からかも知れないけど。
僕が何故英雄と呼ばれ、何がおかしいのかはまだ置いておくとして、変だというのは本人である僕ですら認めてしまう事実である。
認めなければならないんだ。僕が璃奏と手を取り合って生きていられている時点で、狂っていることは確定しているのだから。
神様も何をお考えになっているのだろうか。運命だか何だか知らないが、重い人生を僕に背負わせたものだ。今はとても満足しているけど。
そんな最中。意識を自身の思考内へうつして、戯言を抜かしていると、隣できっちりと横に並んでいた紅梨の足が止まったのを感覚で感知した。
そのまま先に行くのも失礼だし、僕も家に向かって歩を進んでいた足を停止させ、彼女の方へと振り向いてみせる。
「どうした? 急に止まって」
「……いや、その、さ。……やっぱり、お前って――璃奏のことが今でも、好きなのか?」
――これはまた随分と唐突に聞いてくるものだ。
まだ諦め切れていなかったのか、僕のことを。普段の態度と裏腹に純粋で可愛げのある女の子である。良い相手に恵まれるといいものだなー。僕ではなく、他の誰かに。
「あぁ、絶賛大好き璃奏ちゃんって感じだよ」
「そうか……そうか。だよな、うん。悪いこと聞いてしまったな、何でもないんだ。御免」
ヘラヘラと愛想笑いを浮かべて、彼女は何事もなかったかのように歩き始めた。
彼女なりに僕を上手く誤魔化せたと思っているのだろうか。この流れからしてどうして何でもないとか言えるんだ。
後、笑顔も相当引きつっている。彼女は昔っから、自分の感情を抑制するのが苦手な人間なんだよなぁ。
このまま突っ込まずに黙っているのもいいけど、やはり他人の感情が気になるのが僕の性格たる所以なのだろうか。
「前にも聞いたけどさぁ……。やっぱり君は、今でも僕のことが好きだったりするってことか?」
だからこそ、紅梨へ率直的に意見を聞くことにした。自重など出来ない人間で済まないね。
図星だったのか、彼女の足取りが急にぎこちなくなり、ロボットみたいな動きで首をかくかくと動かして、こっちを見つめてきた。少しだけ恐怖を覚えたが、別に怒っているわけではなさそうだ。
「……お前ってさ、本当にデリカシーないよな。言われたことない?」
「沢山あるね。実際にデリカシーないだろう、僕は。自覚してるし」
「直そうと思ったことは?」
「それを僕に直接聞くのかい?」
「ま、お前の答えなんて分かりきっているだけ、無駄……か」
彼女は肩を落として、大きな溜息をついた。だらんと垂れ下がる両腕をぶらぶらさせた後、髪をなびかせ、真剣な表情でこちらを見据える。
紅梨は夕陽を浴びて、どことなく蜃気楼のように揺らめいて見えた。
夕陽を浴びた赤い宝石のようなきらびやかな瞳で、真っ直ぐと僕の瞳を覗かれ、心の中を読まれそうな勢いだ。
「そうだよ。ウチはね、あんたのことを一度だって忘れたことないのさ。……お前からしたら、ただの迷惑な奴でしか無いんだろうけど……な」
「僕からしたらそれこそ理解不能なんだ。何故、僕にそんなにも拘る。もっと良い男なんて、世の中に沢山いるはずだと思うんだが。――君が僕に惚れる理由が、そもそも不明瞭なんだよ」
だらしがない。やる気がない。根性が無い。かっこいいとも可愛いとも言えない。ルックスは悪いとは言い難くも、良いとも言えないだろう。
空気読めない発言だって余裕でこなす、KYな性格といっても過言でも無い僕に、そこまで惹かれる要素が備わっているとは思えない。
自虐的な意見を考えていると、紅梨は薄く口の片端を上げて、寂しげそうに呟いた。
「お前しかいなかったんだよ。ウチとこんなにも普通に会話出来るって人はね」
「……そうか? 君は結構、人との交流があるように思っていたんだが」
「いずれ話すよ。今日はもう遅い」
紅梨が言った通り、太陽がシャッターの閉じている店の向こうへと沈みかかっていた。
慌ててポケットから携帯を取り出し時間を確認すると、丁度十九時とデジタル時計が表示されている。
もうこんな時間なのか……これ以上女の子を夜遅くに一人で帰宅させるわけにもいかないな。
そろそろ紅梨とは自宅と別方向になるし、別れた方がよさそうだ。話の続きが気になったんだけどなぁ~、残念。
「確かに。時間やばそうだし、そろそろ別れよっか」
「そうだな、うん。そうしよう」
「そ~んな悲しそうな顔するなって。僕は無理だとしても、他に良い彼氏出来るって、君ならね」
「……デリカシーの欠片も無い男。遠回しに、ウチがふられてるじゃないか」
だって、なぁ……。
僕はどうしても璃奏のことが好きで、誰よりも大好きだし。
こんなにも自分勝手で我儘な自分を嫌いにならずに済んでいるのも、彼女のお陰だし。
紅梨のこと、嫌いって訳でも無くて、寧ろ好きに値するのだけれども、そこまでは譲れないと思っている。
永遠に譲らないだろう、誓ってもいいさ。
「んじゃ、またな」
「またなー。後、冥太のことは頼むぞー。早く部活でみっちり鍛え上げてやりたいしな! キャッハッハッハ!」
彼女は高笑いしながら、僕に背を向けて走り出した。
見る見る内に彼女の背中は見えなくなっていき、紅梨は去っていったのである。
……泣かせちゃったかな。でも、流石に二股とか出来る器じゃないんだよ。
璃奏だけでも、いっぱいいっぱいなんだ。君の愛を受け止めるには、僕の器では噛み合わないんだ。
世界が認めないし、僕も認めない。神様だって、認めない。
許可は降りない。悲しい運命だねぇ……。
でも、いいや。
僕は紅梨のことは大好きだけど、愛してはいないもの。
君の愛なんて、僕にとってはどうでもいいんだよ。
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